ちょっと昔のことです.
貧乏な村の外れに、これまた貧乏な若者と娘が住んでいました.
二人は好きあっていましたが、お互いの家が貧乏なため結婚することもできませんでした.
ある時、そんな二人が青い空を眺めていると、『あら不思議?』黄色い風船が空から舞い降りて来るではありませんか。
「あの黄色い風船は何かしら?」
娘が言うと若者が
「よし、行ってみよう!」と言いました.
二人は夢中で風船を追いかけると、ようやく村外れで捕まえることが出来ました.
さっそく、見てみると…
風船には小さな袋がついて、袋の中にはひまわりの種と小さな紙切れが入っていました.
小さな紙切れには
『これは幸福のひまわりの種です、この種を蒔いて無事にひまわりの花が咲けば、あなたの願いが一つだけ叶います』と書かれていました。
二人はとっても喜んで、さっそく、二人の家のちょうど真中に種を蒔きました.
でも、たくさん蒔いたのに『幸福のひまわり』は、たった一本しか生えませんでした.
そこで二人は、そのひまわりをまるで子供のように、とてもとても大切に育てました。
日照りになれば朝夕には水を与え、風が吹けば添え木で守り、丈夫に育つように肥やしもたくさん上げました.
そのかいあって、ようやく七十七日目には輝くような大輪のひまわりの花が一つだけ咲きました。

とうとう、願いを言うときがやってきたのです。
しかし、咲いているひまわりは一つなので、聞いて貰えるお願いはたった一つだけなのです。
二人はひまわりの前で顔を見合わせました.
すると、娘が
「ひまわりの花は一つです、どうか、貴方の願いを叶えて下さい」と言いました。
それを聞いた若者は
「僕はいいから、君の願いを叶えて下さい」と言いました。
「いいえ、私は良いですから」
「いやいや、君の願いを言って下さい」
二人はお互いに譲り合ってなかなか願いを言う人が決まりませんでした。
それを聞いていたひまわりは思いました.
『出来ることなら二人の願いを叶えて上げたい!』
この若者と娘は、ひまわりに、とてもとても優しくて、まるでわが子のように育ててくれたからです.
でも、一花一願は神様との約束なのです.
ひまわりも困ってしまいました。
そこで、ひまわりはこっそりと二人の心の願いを覗いて見ることにしました.
娘さんの心を覗くと『どうか、この人が幸せになりますように』と願っているのがわかりました.
今度は若者の心を覗いて見ると、
『私は良いですから、この人が幸せになって欲しい』と願っていました.
ひまわりは二人がお互いを思いやる心の声を聞いて、さすがに目頭が熱くなり一筋の涙をこぼしました.
そこで、このことをひまわりの神様である太陽神にお話しすることにしました.
心が熱い太陽神はこの話を聞き、二人の思いに厚く心を打たれ、しばし大粒の涙を地上に落としていました。
そして、涙を拭うと太陽神は言いました.
「ひまわりよ!一花一願の約束は守らねばならない!叶えてやる願いは一つじゃ!!」
「しかし、若者と娘の願いは同じゃ、それはお互いを幸せにするという一つの願いだ!叶えてやろう♪」
そういうと太陽神はさんさんと輝き、若者と娘の村に愛の光を惜しみなく注ぐのでした.
すると、どうでしょう!!
村中の全ての作物は豊に実り、あれほど貧乏だった村も、若者と娘の家もあっという間に裕福になりました.
そのおかげで、二人はめでたく結婚して、以前にも増して、お互いを思いやる幸せな生活を送るようになりました.
そして、ひまわりは特別にもう一つのプレゼントを用意していました。
そうです、翌年の再びひまわりの咲く季節になると、二人の間には『幸福のひまわり』のように輝く、とても明るい子どもが生まれたのでした。
めでたし、めでたし
紙 二重 作 …2002.11