みっちゃんが田舎のおばあちゃんのところに行ったときのお話です。
「おばあちゃん、花火をやりたいんだけどマッチとロウソクなぁい〜」
「マッチとロウソクなら、仏壇の引きだしの中にあるべさ~」
さっそく、ガソゴソさがしてみると、マッチと一本の古いロウソクが出てきました。
ロウソクは一本しかなかったのですが、仏壇が暗くて、 寂しそうだったので、明りをつけてあげることにしました。
ロウソク立てにロウソクを立てると、マッチで火をつけました。
すると、ロウソクが
「オイラに、命の火をくれて、ありがとう。オイラ、生きかえったのは久しぶりだから、一生懸命働くぜ!
それ、よいしょ、よいしょ」
はじめは小さな火が、やがて、大きくてり
っぱな火になり、ぼたっ、ぼたっと、おおつ
ぶのロウを汗のように流しました。
「ねえ、ロウソクさんは、なんで、そんなに
一生懸命働くの?」
「だつて、オイラが働けば暗らかった仏壇が
明るくなるし、それに、世の中だ
って、少しは明るくなるからさ! それ、よいしょ、よいしょ」
「なるほどね、でも、ロウソクさんより、電
球さんのほうが、ずっと明るいわよ」
みっちゃんが、そういうと、
「いつも、そうなんだ…電球より暗いって、
オイラだって、オイラだって…」
ロウソクは、悔しくて、哀しくて、ロ
ウをぽろりぽろりとこぼしました。
みっちやんは、あわてて
「でも、でもね、ロウソクさんの明りは、か
わいくてきれいだし、仏壇には、一番似合って
いるわよ」
「…へへへ、やっぱりそうかなぁ、そうだよ
なぁ、それ、よいしょ、よいしょ」
ロウソクが、きげんをとりなおして、ゆら
ゆらっと、火のダンスを踊り始めました。
「わあ、すごい、すごい」
みっちゃんが、喜ぶので、調子にのったロウソクは
「よし、オイラの大サービスだ!
それ、よいしょ、よいしょのよいしょ!」
大きなかけ声とともに、きれいな虹色になって
光輝きました。
「わあ、ロウソクさん、すてきよ、すてき!」
でも、みっちやんが、あんまりほめるので『ぽっ、ぽっ』とロウゾクの火が照れて、まっ赤な色に変わってってしまいました。
そんな時、いじわるな風が『フウ〜』と
やってきて、ロウソクの火を大きくゆらした
ので、火が小さくなって、消えそうです。
「風なんかに、負けるもんか、消えるもんか、
それ!よいしょ、よいしょ」
ロウソクは、がんばっています。
でも、もっと強い風が『ヒュ〜』と吹いて
きて、ロウソクの火がだんだん小さくなり、
やがて、見えなくなってしまいました。
「ああっ、消えちやだめ!ロウソクさん、が
んばって!がんばって!」
みっちゃんは、小さな両手で、やさしく、
包みこむように、ロウソクさんの火を風か
ら、必死に守りました。
しばらくすると、みっちゃんの手が、ほん
わり、温かさを感じました。そして、
「よいしょ、よいしょ」のかけ声も聞こえて
きました。みっちゃんは「ホッ」としました。
「ありがとよ、おかげさんで助かったぜ、こ
んなオイラだって、守ってくれる人がいる
と、うれしいもんだぜ。それ、よいしょ」
でも、よく見ると、さっきがら、がんばり
すぎたロウソクさんは、もう、短くてあと少
ししかありません。
「ねえ、ロウソクさん、最後まで燃えちゃったら
どうなるの?死んじゃうの」
「ああ残念だけど、オイラ、もう少しでこの
世とおさらばさ、よいしょ・」
「だめだめ、もっともっと、がんばってロウソ
クさん、もっともっとお話ししましょ!」
「いいんだよ、みっちゃん、オイラ、あんた
に会えたし、ガンバレたし、働いて少しは世
の中のお役に立てたし、良かったぜ!
よ…い…しょ……」
そう言い終わると、ロウソクさんは、ふわっ
と明るくなって、仏壇を照らすと『パッ』と
消えてしまいました。
ロウソクさんがいなくなったあとから、白
い煙がスーッと立上がり、小さな小さな
『よいしょ…』が聞こえると、煙はゆらゆら
っと、仏壇の中に消えていきました。
そこには、今まで気がつかなかった、ひい
おじいちゃんの写真が、うれしそうに、ニコ
ニコと笑っていました。
作…1999年、春