「あら、あら、あらら」あっちやんのママがカゼをひいて寝込 んだら、いつもきれいな台所が、それはそれは、もう、大変な ことになっています。
 フライパンは、おこげがついたままで使いぱっなし、おなべの蓋は行方不明、ごはんのジャーは、あけっぱっなし、 まな板のうえは野菜がのりぱっなし、洗い場は使った食器 でいっぱいです。
 おまけにごみ入れは山もりで、虫がプンプーンど飛んで います。
「あ〜 もういやだ〜」
フライパンがパンパンどおこりました。となりのおなべ も顔を赤くして、ぐつぐつどおこりました。
ごはんのジャ一もホカホカおこりました。
それを聞いていた包丁が言いました。
「おれたちは、今まで一生懸命働いてきたのにこの扱いはどうだ!こんなに使いばっなし散らかしばなっしにするなら、台所を使えないようにしてやろうじやないか」
「そうだ!そうだ!こうなったら、みんなでストライキだ!」
 まな板が賛成いすると、台所のみんなも、大賛成です。
まずは交通標識をマネして、フライパンはたすき掛けで 通行止め、おなべは白はちまきで進入禁止をつくりました。
仕上げにまな板が体を台所の入り口にしっかり押しつけ て、開かなくしてしまいました。


       

さあ、大変、台所が使えないので夕ごはんが作れま せん。みんな、おなかがペコペコになってしまいました。
そこで、パパがこわい顔して
「やめないとゲンコツだぞ」
と台所のみんなに言いましたが、しらんぷり。
おじいちやんが
「おもしろい話をしてあげるから」
と言ってもしらんぷり。おばあちやんが
「おやつをあげるから」と言ったら、ちょつと二コッとし ましたが、やっばりだめだめ、しらんぷり。
 さあ、みんな困ってしまいました。
 あっちやんはおなかが空いて、もう泣きだしたいくらい です。
 そこヘ、台所があんまり騒がしいので、ママがベット から起きだして来ました。
「どうしたの、ふんふんなるぽどね、仕方がないわね。 ちゃんときれいにしてあげないからよ」
 そう言ってママは腕まくり。
 台所の前に立つと大きな声で言いました。
「ママがきれいにしてあげるからもうやめなさい」
すると、いままで怒っていたフライパンたちが、ウソ のように、たちまち静かになりました。
 そこをみはからって、今度ははママが台所のみんなに大き な声で指図をしました。
「フライパンにお鍋にまな板さん、お玉に茶碗にお箸さん は、きれいに洗ってあげるから洗い場に集合!」
「野菜さん、包丁さん、響油にソースにマヨネーズさんは、 元の位置にせいれつ!」すると
「おれが先に洗ってもらうんだ」とフライパンがいうと 「いや、ぼくだよ」「だめ、わたしよ」と、まな板とお鍋 たちも競争で洗い場にあつまりました。
「これ、これ、お鍋さん、割り込みはいけませんよ、ハイ、ハイ、まな板さんもお玉さんも、ちゃんと順番にならびな さい」
「さあ〜ならんだら、どんどん洗うわよ〜」
「ジャブジャブ、キュッキュッ、ピカピカリン
 ジャブジャブ、キュッキュッ、ピカピカリン」
 ママが歌うと魔法がかかったみたいに、台所が「あっ」 というまにきれいになりました。


「さあ、こんどはおいしいごはんを作りますよ〜
 いいですか、みんな〜」
「はあ〜い」台所のみんなが声をそろえて言いました。
そして、こんどは台所のみんながママといっしょに歌いまし た。
「トントカトントン、ジュージュージュー
 トントカトントン、グツ、グツ、グツ、」
 まな板と包丁はトントン手拍子で、きれいに野菜を切り ました。フライパンはジュージューどハンバーグを焼きま した。おなべはグツグツどおいしいみそ汁を作りました。
ジャーも、ごはんをおいしく炊きました。
「さあ、みんなタごはんですよ〜」
「いただきま〜す、ママって、最高!」
 あっちやんは大喜びです。
そして、パパもおじいちやんもおばあちやんも家族のみ んなが声をそろえて言いました。
「今日のごはんはとってもおいしいよ〜」
それを聞いていた、台所のみんなもちよっぴり得意そう です。
 そこで、ママが言いました。
「でも、ママはちよっぴり疲れちやったなぁ〜」
 すると家疾のみんなが言いました。
「はあ〜い、ちゃんとおかたづけします」
「ぼくも、お手伝いします」
 あっちやんもしっかりと言いました。
 ママは、台所のみんなに片目でパチリ!
 フライパンやお鍋たちも片目でパチリ!
 さあ、今日の台所は、みんなでおかたづけをしたので、 きれいになってピカピカです。
「台所のみんな、これからはママがいなくてもきれいにす るから、おこらないでね」
…あっちやんは小さな声で、そうっとお約束しました。
「じゃ、おやすみ」
『はい、おやすみなさい』…台所のみんなも言いました。

(パチリ)台所のあかりが消えて、みんなスヤスヤお眠り です。

作…1988年頃



  



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