『 桜 蝶 』

大きな病院の前に大きな桜の木がありました。
不思議なことにその桜の木にはニ枚だけ花びらが残っていて、春も過ぎたと言うのに散る気配はありませんでした。
 そんなニ枚の花びらを見ていた、桜の木に住むミノムシが言いました。
「おい、君達は何でそんなに頑張っているんだ?」
 そう、ミノムシが聞くと、花びらが一枚ずつ答えました。
「俺は根性があるからさ!!」
「私は愛があるからよ〜♪」
「…えっ、根性と愛?それってすごいな〜」
「ところで、ミノムシさんは何で今ごろここにいるの?」
「それは、寝坊・・・いや…大冒険をするためさ」
「ふ〜ん、大冒険ね〜寝坊したのに?」
「それって、寝坊したから考えたの?」
 ミノムシはうっかり口を滑らしたので、すっかり寝坊のことがばれてしまいました。
 でも、花びらたちが続けて言いました。
「ねえ〜ミノムシさん、僕たちも大冒険に行きたいなぁ〜」
「私も行ってみたい」
「それが、俺の仲間はミノムシから蝶になって、みんな何処かに飛んで行ったけど、俺はご覧の通り、寝坊したので羽も生えなくてミノムシのままなんだ!!」
「そうだ!!ミノムシさん、根性のある俺が羽になってあげるから、みんなで冒険に行こうぜ!!」
「あっ、それっていいわよ〜、私も羽になってあげるわ!!」
「本当に!!」
 三人の話はトントン拍子に進み、桜の木のミノムシと桜の花びらは合体して、名前も『桜蝶』に決めました。
 早速、ミノムシが口から出す糸で身体を花びらとつなぐと蝶のように飛んで見ることにしました。
「いいかい『それっ』って言ったら、蝶のようにパタパタってやるんだよ」
「それっ」ふわっ〜、オットト…最初はちょっとしか飛べません。
「もう一回、それ〜根性!根性!」
 ふわ〜ふわり、パタパタ〜
「ウワッ〜飛んだぞ!!」
 でも、まだへたくそなので、たちまち風に流されて近くの病院の窓にぶつかってしまいました。
「ああ〜ドスン」

 桜蝶の三人は、またバラバラになって気を失ってしまいました。
 でも、気がつくと病院のベッドに寝ているニコニコ顔の優しいおじいさんがこう言ってくれました。
「おばあさん、珍しい蝶さんが窓にぶつかって、ケガをしてしまったらしい、そこのオモチャの接着剤を持ってきておくれ」そう言うとたちまち元どおりに直してくれました。
 そして、元気になるように蜂蜜までご馳走してくれました。桜蝶は、すっかり元気になると言いました。
「おじいさん、ありがとう!!何かお礼をしたいけど何が良い〜♪」 「アッハッハッ…そうだな、お礼などいらないが、昨日、お腹の大手術をしてな〜死ぬ前にもう一度桜が咲くのを見て見たいものじゃ!!」
「おじいさん、何を大げさに言っているんですか、すぐに元気になりますよ」
 おばあさんは、おじいさんをたしなめましたが、桜蝶は、おじいさんが真面目な顔で言うので、それを聞くと言いました。
「明日の朝、あの桜の木を見ててね!!」
 そう言うと桜蝶は今度は元気よく飛んでいきました。

 そして、ミノムシの仲間が蝶になったところに行くとこうお願いしました。
「実は、これこれこういう訳なのでで、明日の朝、あの桜の木のところにみんなで集まって欲しいんだ。それで、僕たちがこう言ったらこうして欲しいんだけど!」
 ミノムシの仲間の蝶も桜の花には蜜など吸ってお世話になったので快く引き受けました.翌朝になり、たくさんの蝶が集まってきてくれました。 「それっ、イチ、ニイ、サン」
 昨日の打ち合わせ通りに桜蝶が号令をかけると、桜の木に集まった蝶がいっせいに羽を広げました。
 それを見たおばあさんがいいました。
「おじいさん、来てご覧なさい窓の外の桜に花が咲いていますよ!!」
「おっ、どれどれ〜 オッー、桜が満開じゃ〜」
「それ、サン、ニイ、イチ!!」
 また、桜蝶が号令をかけると、今度は蝶が木からすべり落ちるようにひらひらと舞い始めました。それはまるで天国の園で、桜の花が舞って散るようにとても優雅で綺麗でした。
 それを見た、おじいさんはたちまち元気になって言いました。
「おばあさん、長生きと親切はして見るものじゃな〜」
「何を言ってるんですがおじいさん、お腹を切ったといっても盲腸じゃありませんか!!大げさなことを言ってはダメですよ」…ポクッ
 そして、桜蝶はおじいさん達の喜ぶ顔を見ると、今度は本当に大冒険の旅に飛んでいきました.

2003.8 … 紙 二重 作



  



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